建築家、谷尻 誠さんが自邸のリビングに選んだ、カスタールのラグ。前編に続き、この後編では、谷尻さんが住み手としてカスタールのラグに感じる魅力を伺いました。

一年中さらりとしていて
気持ちがいいウール

所 清志(以下、所) カスタールはウールとリネンという天然素材のみを使用しているのも特徴です。「OTHELLO」はウール100%のラグですが、実際にお使いになってみていかがですか。

谷尻 誠さん(以下、谷尻) 手触りがめちゃめちゃ気持ちいいです。テーブルの下になっている部分がもったいないと思うぐらい(笑)。ウールって温かいイメージがあるかもしれませんが、全くそんなことはなく、一年中さらっとしていて快適です。

所 そそもそもウール自体は発熱していないんですよね。ウールのジャケットやコートがあたたかいのは、人間の体温を保温するから。ウールは空気中の湿気を吸って、吐いてくれる。呼吸している、生きてるってよく言われるんです。夏場は気化熱が発生するので、むしろ涼しいんですよね。

ウールは、洋服の世界でも高級とされているニュージーランド産の羊毛のなかでも、太くて白い原毛のみを厳選しています。その理由のひとつは、耐久性が高いから。もうひとつは、漂白をしなくてもいいほどに白く、きれいな色に染まるから。カスタールはサステナビリティへの意識が高く、漂白のための化学薬品を使用しなくて済む、というのは彼らの素材選びにおいて重要な視点なんです。    

谷尻 そうなんですね。

所 このラグを敷くとき、かなり重くなかったですか?

谷尻 はい。スタッフに手伝ってもらいながら敷いたのですが、上にテーブルも置くし、「一度敷いたら動かせなくなるから大変だぞ!」って言いながら位置を決めました(笑)。

所 (笑)。重さは糸の量に比例しているんです。ラグは密度が高いほど高級とされているのですが、カスタールのラグが高密度である証拠なんです。

カスタールのラグは
アートのように美意識を育むもの

所 谷尻さんは住宅を数多く手掛けられていますが、その際にラグを提案されることはありますか?

谷尻 毎回ではありませんが、あったほうがいい時は提案しています。スペースが限られている場合はあまり絵にならない気がして。

所 ラグや絨毯はもともと西洋から入って来たもので、日本にはラグを敷く文化や歴史的背景がないため、ラグを敷く住まいが少なかったんです。近年、ようやく増えてきたようには思いますが、インテリアを決めるとき、椅子やテーブルといった家具が優先されて、ラグはどうしても最後になってしまう傾向があるんです。ましてやカスタールは手に取りやすい価格ではないので、なかなか購入に至らないという課題を抱えていて……。

谷尻 極端な話、ラグはなくても成立しそうな気がするのかもしれないですね。必要性に駆られるものではない、というような。

所 でもラグは、保温性と断熱性に優れていて、ホコリを舞い上がらせにくいという特性があります。なかでもウールは、吸湿性と放湿性が高く、一年中快適に過ごすことができるうえ、繊維が天然の油分でコーティングされているので、ホコリや汚れがつきにくい、優秀な素材なんですよ。

空間への作用でいえば、ラグは「場」を作ることができます。現代の住まいは、リビングやダイニングがひとつになった間取りが一般的になりましたよね。空間が広く感じられますが、どこか間延びした印象を受けることもあります。それぞれの空間にラグを敷くことで、メリハリが生まれ、視覚的に場を分かつことができます。

谷尻 領域性が生まれますよね。ラグを敷くことで、人を集めることができそうです。確かにそれはある種、ラグの機能ですね。

僕が思うに、ラグはアートみたいなものじゃないでしょうか。なくても空間は成立するけど、あれば空間が豊かになる。飽きるということもなく、その存在自体が美しく、そして気持ちがいい。それが“機能”であるかもしれません。

所 アートという考え方は新鮮です。そうかもしれませんね。

谷尻僕自身、クライアントに提案するときは、「ちゃんとしたものを買ったほうがいいよ」とお話しています。若いころは、まだそういう価値観になっていなかったこともあって、クライアントにとって予算が厳しいなら、その“しょうがない”なかで買うってことをクライアントに提案してしまっていました。

でも今は違います。変なものなら買わないほうがいいとか、少し頑張れるなら買っておいたほうがいいと助言したりしています。たとえば、ローコストで住宅を作る場合、ローコストで作ることが目的になってしまうのなら、建てなくていいんじゃないかって。なぜなら、住まいづくりのゴールはその先に豊かな生活があることだと思うから。

所 豊かな生活という目的を見据えた妥協のないもの選びが、このお住まいをかたちづくっているのですね。

谷尻 そういえば、妻もこのラグをひと目で気に入りました。「ラグにそんなにお金をかけるなんて…」って言われてもおかしくはないと思っていたんですけど、家の中に置くものはできる限り“本物”を選んでいこうという考えは、夫婦間で合致しているところなので、カスタール以外の選択肢はなかったかもしれません。

6歳になる息子には、このラグの価値はまだわからないと思いますが、こうしたものがきっと美意識を醸成していくはず。本物を身の回りにおいて生活することが、「こうしなさい、ああしなさい」っていろいろと言葉で教えるよりも大事なんじゃないかなと思っています。

所 先ほどのアートのお話にも通じますね。お話を伺って、カスタールのラグが谷尻さんのお住まいにしっくりとなじんでいる理由がよくわかりました。今日は本当にありがとうございました。

谷尻 誠さん

建築家・起業家・SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.代表取締役

1974年、広島生まれ。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田 愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手掛けるかたわら、穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども務める。近年オープンの「BIRD BATH&KIOSK」のほか、「社食堂」や「絶景不動産」「21世紀工務店」「tecture」「CAMP.TECTS」「社外取締役」「toha」「DAICHI」をはじめとする多分野で開業、活動の幅も広がっている。https://suppose.jp

【SUPPOSE DESIGN OFFICE 作品集】
「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)



Interview with Makoto Tanijiri, an architect who chose Kasthall’s woven rug “OTHELLO” for his residence. Following the first part, we asked Mr. Tanijiri, the designer and a resident as well, about his impressions of actually using “OTHELLO”, and how the rug performs well in his house.

Mr. Tanijiri praises the comfort of wool rugs, saying that Kasthall rugs are excellent to the touch. He also said they have smooth dry touch feeling and comfortable not only in winter but also in humid summer. Rugs are also like art to him. Even if it is not there, it can be nothing wrong with its space, but if it is there, the space will be enriched. Never lose interest in it, the existence itself is beautiful and it feels good. That is the “features of rug” for him.

Mr. Tanijiri’s wife also got to like “OTHELLO” at a glance. This is because, in the life with their 6-year-old son, they have a common idea to select “real” to put in their house as much as possible. So Kasthall was the best choice for them. Their son may not yet know the value of Kasthall’s rug. However, like as with art, they believe that fill up home with a “real” should surely foster a sense of beauty.

Makoto Tanijiri
Architect / Founder 
CEO of SUPPOSE DESIGN OFFICE Co., Ltd.
Born in Hiroshima in 1974. Architectural design office SUPPOSE DESIGN OFFICE established in 2000. Since 2014, he has co-dominance with Ai Yoshida. Based in Hiroshima and Tokyo, while working on numerous projects like interiors, housing and complex facilities at both domestically and internationally, he also works as a Part-time Lecturer at the Anabuki Design College, a Visiting Professor at the Hiroshima Jyogakuin University, and an associate Professor at the Osaka University of Arts. In addition to the recently opened “BIRD BATH & KIOSK”, in various fields such as “Sha-Shokudo”, “Zekkei-fudosan”, “21 Seiki Komuten”, “tecture”, “CAMP.TECTS”, “Shagai-torishimariyaku”, “toha”, and “DAICHI”, the range of his activities is expanding.

Photographs:Satoshi Shigeta(excluding facade), Toshiyuki Yano(facade)
Text:Kyoko Furuyama(Hi inc.)
Creative Direction:Hi inc.